決算後に、株価が大きく下落する可能性がある場合に対し、その損失を抑える為の手段として、つなぎ売りという手法があります。また、株主優待だけをもらう方法(両建て)としても、このやり方が利用できます。このつなぎ売りについて、筆者がやってみた中で、気を付けるポイントやその感想を書いてみたいと思います。筆者が利用している証券会社は楽天証券の為、ここでは主に楽天証券の例をとって、記載をしていますので、別会社を利用の際は、ご自身の証券会社の内容を確認して頂くようお願いいたします。
つなぎ売りを始める前の事前確認
つなぎ売りを行う為には、事前にいくつかの確認をしておく必要が有ります。以下の内容を確認しておきましょう。
- 信用取引の利用確認
- 取引銘柄の信用売りの利用確認
- 優待内容の確認(決算時期の株主優待狙いの場合)
信用取引の利用確認
まずは、証券会社の信用取引の利用有無を確認しましょう。証券会社では、初期時点では、信用取引の利用ができない仕様になっている会社もあります。その為、事前に信用取引が利用できるようにしておきましょう。
楽天証券の場合は、下記画像の様に、右下の赤枠の所で信用取引の利用状況を確認できます。「申込」の状態の方は、「取引可」の状態にしておきましょう。
信用取引の口座開設には申請してから、2〜3日かかる場合がありますので、利用する可能性がある時は、前もって申請をしておきましょう。
楽天証券の信用取引口座の開設基準は以下の通りとなっています。
- 総合取引口座を開設済
- インターネットの利用可
- メールアドレスの保有
- 登録の電話番号で、常時連絡可能
- 他社を含め、信用取引あるいは一定の現物株式取引の投資経験
- 金融資産が100万円以上
- 年齢が80歳未満
信用取引の利用限度額や保証金とリスクについて
信用取引は、自身の保有する現金や株式を担保として、お金を借りて、株式を売買します。その為、自身の保有する資産以上の取引が可能となっています。他方、保証金が不足した場合は、強制的に保有する株式を決済されるリスクもあります。
信用取引で必要な資金と最大取引額については以下になります。
- 最低保証金が30万円必要
- 預けた担保の評価額の最大約3.3倍まで株式の取引が可能
最大額まで、借りて取引するのは、非常に危険です。理由は、保証金の代用としている有価証券が値下がりして、金額が下がったり、信用取引で購入した株式が含み損なったりした場合、保証金がこの「最低保証金率」に必要な額を下回った場合は、追証(不足分の保証金が追加で必要)が発生します。
さらに信用買いでは金利が発生します。金利支払いで、保証金が減れば、追証が発生します。
この追証の解消には、翌々営業日の12:00(正午)までに入金もしくは建玉の決済が必要となります。この解消ができないと、強制的に建玉を決済されてしまいます。
保証金が減るリスクは以下になります。
- 保証金の代用としていた株式の値下がり
- 信用取引での含み損
- 信用買いの金利
特に株式による代用の場合は、日々、株価が変動している為、基準の株価がどこなのか?をしっかり把握しておくべきです。値上がりして、もっと借りられると借り続けると、下落時に一気に追証がのしかかってくることになります。
取引銘柄の信用売りの利用確認
ここが一番大事なポイントになると思います。信用取引ができるようになっても、信用売りの中には制度信用/一般信用とあり、同じ信用取引であっても内容が大きく異なってきます。両方の違いをしっかり把握して、上手に活用しましょう。
制度信用とは、「賃借」となっている銘柄が対象となっており、一定の基準を満たしており、証券金融会社と呼ばれる会社から株券を調達するものです。
一般信用とは、「信用」となっている銘柄が対象となっており、証券会社が決めた銘柄となっており、証券会社が株券を調達しています。
賃借銘柄のものは、制度信用と一般信用の両方が利用できるものがあります。しかし、信用銘柄の場合は制度信用の利用はできません。つまり賃借銘柄の方が利用範囲が広いという事になります。
次に、同じ信用売りとしては、どちらも同じ売り建てとなりますが、この2つには下記の2つの大きな違いがあります。
- 貸し出し金利の違い
- 貸出期間の違い
貸し出し金利は、制度信用は、その取引具合で金利が変動する為に、高くなる事があります。一般信用は、証券会社で決めた金利の為、ほぼ固定です。つまり利用するなら一般信用の方がはるかに利用料が安いと思います。
制度信用と一般信用の金利の違い
① 制度信用は、証券金融会社という所から株券を借りてくる為に、金利が上乗せされる為、高く設定される可能性があります。この金利は、日本証券金融会社にて確認する事が可能です。下記の赤枠内に銘柄コードを入力して検索ボタンを押すと品貸料が確認できます。
下記の赤枠部分に品貸料が表示されます。この時の料率はほぼ1日当たりの料率となります。通常時、取引が緩慢であれば、料率は記載はありませんが、月末やつなぎ売りが利用されると考えられる時は、取引量が増える為に、かなり高い料率が入ってきます。逆日歩とも呼ばれているものです。
参考までに過去の品貸料率については、以下画像のように、赤枠から過去ファイルがダウンロードできます。
ファイルを開くと以下の様になっています。1日当たり、0.1円/株や0.05円/株といった料率がかかってきます。この品貸料は株式優待だけを狙う場合には、重要になります。この品貸料が高いと、両建てして、優待をとっても、品貸料の方が高くつき、赤字という事になります。
この日本証券金融株式会社に品貸料の記載が無くても、信用取引をした際には、一定の品貸料の支払いは発生します。次の一般信用にて記載しています。
② 一般信用は、証券会社が保有する株式を貸し出す為、証券会社で貸株料を決めています。楽天証券では以下の様になっています。
上記を見ればわかるように、一般信用取引では、無期限の利用をした場合、年1.1%での金利となる為、非常に安い金利となります。そして、制度信用を利用した場合にも年1.1%の金利がかかる事が分かります。下記画像のように、一般信用の時は、日本証券金融株式会社より株券を借りていない為、品貸料はかかりません(品貸料については、前述の制度信用を確認下さい)。
以上のように、制度信用では、取引量が増えると、金利が跳ね上がる為に、一般信用の方が使い勝手が良いと言えると思います。しかし、一般信用は証券会社が保有している株券を貸し出すものなので、利用株式数に限りがあります。なので、利用が集中しそうな時は、早い者勝ちな要素があります。私がつなぎ取引で利用しようとした際、なるべく金利を安くしたい為に、直前での利用をしようとした所、株式が無いという状況となっていました。
制度信用と一般信用の貸し出し期間の違い
制度信用は、貸出期間が最長6ヶ月と定められています。6ヶ月経ったら、必ず返済となります。一方、一般信用は期間がいくつか設定されています。楽天証券では以下の様になっています。金利もそれぞれで異なっています。
この事から、一般信用の無制限が最も割安で長期に借りられる内容であることが分かると思います。最も長期で借りるメリットはほぼないですが・・・。
優待内容の確認(決算時期の株主優待狙いの場合)
株主優待だけを狙う場合には、事前に株主優待の取得条件を確認しておく必要が有ります。株主優待には、以下の条件があります。
- 権利の取得時期
- 保有株式数
- 保有年数
- もらえる優待内容
これらを調べるには、「みんかぶ」を使うと、分かりやすいです。下記画像の赤枠内に銘柄コードを入れて検索をクリック
優待があるものは、下記画像の赤枠のように「株主優待」の記載があります。株主優待が無いものもあります。その場合は、手前の「シグナル」の項目までしか記載がありません。
優待内容が出てきますので、確認します。下記の様に、長期保有等の記載が無いものは、権利付き最終日までに株式を保有し、権利落ち日に株式を売っても優待権利を得られるものになります。左枠の取得株式数、右上の優待権利確定月、そして優待内容/備考欄が優待の詳細情報となります。
補足:「権利付き最終日」や「権利落ち日」の確認も「みんかぶ」で可能になっています。上記タブの「株主優待入門/コラム」をクリックして、「権利確定日一覧」をクリックする事で確認ができます。
一方で、下記の様に、一定期間の株式保有が必要なケースもあります。この場合は、期間途中で株式を売ってしまうと、権利を失ってしまいますので、注意が必要です。売った後に買い戻しをしても、ダメです。つなぎ売りでは利用できない優待となります。下記の例で言えば、8月に購入後、2月末時点でも保有をしていなければ、優待権利の獲得とはなりません。
つなぎ優待狙いをするのであれば、長期保有が必要ではない銘柄に絞る必要が有ります。「みんかぶ」では、以下の様に、当月の優待だけに絞って確認をする事も出来ますので、まずはどんな優待があるのかを確認しておきましょう。TOPページから、「銘柄を探す」から「株主優待を探す」を選択
下記の様に、「月」で選択できる項目がありますので、対象月を選択して検索をかければ、その月の優待だけを確認する事が出来ます。「みんかぶ」では、月だけでなく様々な方法で優待内容を調べる事が出来ますので、是非、使ってみてください。
つなぎ取引による優待を狙う場合には、先の金利だけでなく、その他手数料がかかります。その為、金額の低い優待を狙うのは適しません。500円のクオカードをもらうのに、500円以上の手数料を払ったのでは、全くの無駄です。金券ショップで買った方がはるかにお得になるからです。後述で、実際に私が行った優待取得時の対応を確認して頂ければと思います(項目:実際に優待狙いのつなぎ売りをした結果を参照)。
つなぎ売りの取引方法
つなぎ売りでは、単純に買いと売りを入れれば良いという訳ではなく、楽天証券では以下の規則があります。現物取引の買いを入れた後に、同じ株数/株価で信用売りを入れる。そして権利付最終日の翌日以降に信用売りを「現渡」で決済する事です。(※現渡とは信用売りした株式を買い戻すのではなく、同じ株数株価の現物買いの株式で相殺する事です)
通常で、売りを入れようとすると、クロス取引となって、取引が出来ない時があります。その時は寄付で買いと売りの両方を同値で入れると取引可能となります。しかし、寄付で、どちらかが約定しなかった時は、直ぐに、約定されなかった側の取引を同値で注文をいれて約定するようにしましょう。
現渡時は、マーケットスピードⅡの「信用建玉一覧」から、対象の銘柄の「現渡(赤枠)」をクリックし、「株式数」を入力して「確認」をクリックで実行できます。一定時間後に保有している現物株式も自動的に決済されます。
つなぎ売りをするデメリット
つなぎ売りは株価下落時の損失を抑える、又は優待をもらう為の方法です。
その為、配当狙いの場合は、この方法は使えません。
なぜなら配当は買いポジションは受取ですが、売りポジションでは支払いとなります。その為、両建てをしてしまうと、配当は相殺されて、もらう事ができません。高配当銘柄の場合は、つなぎ売りをして配当を手放しても、お得なのかどうかを考えて行うようにしましょう。一時的な下落で再び元値に戻る可能性があるのであれば、配当をもらった方がはるかにお得になります。
優待は概ね高くても、100株取引で、2,000円程度のものがほとんどです。配当で1株当たり20円以上つけば、それだけで2,000円以上もらえる事になる為、つなぎ取引で、優待を狙うよりも配当をもらった方が、つなぎ取引にかかる費用分、お得になります。
実際に優待狙いのつなぎ売りをした結果
ここでは、私が、2022年7月末に実際に、3539:JMホールディングスにて優待狙いのつなぎ取引を行った時の内容を、参考として記載しておきます。
取引銘柄を決定(優待内容を確認)
まずは、取引する前に、「みんかぶ」にて7月の優待について、2,000円以上の優待がある内容を調べました。その中で、下記画像の内容の優待があった為、これを取得する事にしました。来年(2023年)からは、1年以上保有が条件となる為、来年はつなぎ優待狙いはできません。
一般信用取引の可否確認
優待狙い銘柄を決めたら、次に「一般信用取引」ができるのかどうかを確認です。制度信用では、高い料率がかかってくる為、一般信用取引ができる銘柄に絞った方が良いです。特に月末の権利付最終日付近では金利が爆上げしてくるからです。一般信用の可否確認は、株式市場の取引時間外に「一般信用(無制限)」で指値を入れてみると良いです。下記の文言が出てきたら、取引不可となっていますので、他を当たりましょう。
一般信用取引ができる事が確認出来たら、「現物買い」と「信用売り」に同値で「寄付※」で「指値」を入れておきましょう。両方が約定しないと、成立しませんので、必ず確認し、片方しか約定してなかった場合は、即、もう片方に指値をいれておきましょう。私がやった時は、売りしか約定せず、慌てて、買いの指値を入れて約定させました。確実に両方を約定させる方法があれば、その方法を使う事をお勧めします。
※寄付とは株式市場が開場した時に、株価が約定されて、値が付く事。取引を寄付きで選択した場合には、寄付きで約定しなかった場合には、その注文は無効となって、注文自体が消えてしまうので、必ず約定の確認をしましょう。
かかる費用確認
一般信用の場合は、直近では株式数がなくなって、取引できなくなる為、1ヶ月位前から取引を入れる事を想定して、期間を換算しておくと良いです。私は7/15に両建て取引を実行、その後、7/28に現渡をしました。その時の取引内容は以下の通りです。
かかった費用は、現物取引手数料(105円)+信用取引手数料(135円)+現渡(諸費用=貸株料89円)となり、合計329円かかった計算になります。
貸株料は1.1%/年なので、2,000円程度の銘柄であれば、1日6円程度(2000円×100株×0.011料率÷365日数)の費用がかかると計算ができます。これを考慮して、1ヶ月前に仕込んだとしても、多くても180円程度の費用となりますので、この辺を考えて銘柄選定をすると良いと思います。
私は最初から金利が予測できない制度信用を利用せずに、一般信用での取引を優先しました。制度信用を利用する際は、日本証券金融株式会社の金利を確認して行わないと損してしまう事もあるので気を付けましょう。
今回の場合は、費用329円で2500円相当の優待がゲットできたのですから、お得という事が分かると思います。
手数料無料のおススメの証券会社(年齢制限有)
25歳以下の方なら、手数料無料の松井証券を利用すると、手数料も無料になるかもしれません(品貸料や貸株料は無料にはなりませんので、ご留意下さい)。私は50歳台なので、利用はできませんので、詳細は分かりかねますが、口座だけでも作っておくと良いかもしれませんね。
参考:制度信用を利用したと仮定した場合
参考までに、仮にどうしても欲しい優待があって、制度信用を利用した場合の費用についても、計算の仕方を載せておきます。
今回、取得した3539:JMホールディングスを例に考えてみます。今年度の品貸料の見方が分からなかったので、昨年度のデータを基に算出します。下記画像から、最高料率が4.6円/株(1日当たり)となっているのが分かると思います。最高料率は最大でかかる金利となりますので、実際は、当日の品貸料の値になるので、もっと低いかもしれませんが、この値を参考に計算をすると、2,000円程度の銘柄の場合、1日460円程度(100株×4.6円)の費用がかかってしまいます。そして、権利取得の為には、権利最終日~権利落ち日をまたいで保有しておく事が最低条件になる為、最低2日保有する事になります。その為、倍のコスト(960円)がかかる事となります。高い金利がかかる事が分かると思います。制度信用を利用して優待取得時は、日本証券金融株式会社の金利情報を必ずチェックして行う事をお勧めします。取引量が少なければ、品貸料0%という事もあると思いますので、最初からあきらめる必要はないとは思いますが、注意は必要です。
もっと株式投資を勉強したい方は下記リンクからご覧下さい。
コメント